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橋下知事のための国際航空講座

2008/12/18 22:52

 

 今日、航空業界で注目されるべき報道を時事通信が行った。 

関空地方路線、外国航空会社に=振興策で国交省検討 

 国土交通省は18日、関西空港の振興策として、外国航空会社が関空を経由し地方空港を結ぶ路線を認めるかどうかの検討に入った。国内線の廃止・減便が相次ぐ関空の浮上につながる可能性がある。 
 関空は京阪神の中心から遠く利便性が低いことから、地方を結ぶ国内線が軒並み赤字。廃止・減便は2008年度下半期が15路線、09年度も10路線前後が検討されている。 
 そこで関空に乗り入れている外国航空会社に着目。航空協定上、外国航空会社が関空-地方間のみを利用する乗客を運ぶことは難しいが、日本の航空会社が座席を買い取れば可能かどうかなど実現性を探る。 
 これを受けて、大阪府の橋下徹知事は同日、都内で記者団に対し「大変大きな話。非常にありがたい」と述べ、期待を示した。  

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 この記事が言う「航空協定」とは、単に2国間の航空協定を指すだけでなく、その基本となっているバミューダ協定シカゴ条約をも指している。 

 国際航空輸送の枠組みには「第1の自由」から「第9の自由」までの定義がある。第1の自由である他国の領空通過から、第5の自由である以遠権の行使(アメリカのキャリアが成田経由で韓国フィリピンなどに路線を運航する事例などがある)までは英米間の航空協定であるバミューダ協定で認められ、それをもとに世界では第5の自由までを取り入れた2国間協定が結ばれた。そして、シカゴ条約では第8の自由であるタグエンド・カボタージュ(例えばメルボルンから関西まで来たオーストラリアのキャリアの便が、関西から鹿児島まで引き続き飛ぶ場合など)、第9の自由である完全なカボタージュ(中国のキャリアが中国便との接続なく羽田=関西線を運航するなど)を禁止している。 

 日本も含め、世界各国は現在でもこのシカゴ=バミューダ体制のもとで2国間協定を結び、国際航空輸送の枠組みを作っている。だから、羽田=関西線を上海航空が運航したりすることはない。しかし、今回のこの報道にある「国交省の検討」が仮に現実化すれば、日本の航空行政がタグエンド・カボタージュを認めることになる。これはシカゴ条約に違反する可能性があるため、国交省は「検討に入」り、「実現性を探る」のだ。 

 タグエンド・カボタージュと純粋なカボタージュがシカゴ条約に違反するかどうかは、現にあるEUの事例から議論が行われている。 
 EUではリベラリゼーションの過程で域内でのカボタージュ輸送を全面的に認める改革が行われた。例えば、ブリティッシュ・エアウェイズは(タグエンドであろうがなかろうが)パリ=トゥールーズ間(フランス国内線)を運航出来る。 
 これは一見、第8・第9の自由を禁じたシカゴ条約に違反しているように見えるが、シカゴ条約第7条では排他的な"特権"のやり取りの禁止という前提でこれらの自由を認めていない。とすれば、EUの場合加盟国全ての間での取り決めであるため排他的ではない(つまりシカゴ条約が禁ずるところではない)、という意見があるのだ。また、EUは既にアメリカに対して一部カボタージュを認めているため、域外のキャリアもカボタージュが認められうる(と言えるという意見があるが実際は微妙だ)、つまり排他的ではないという議論もある。 

 記事中には、関空発着の国内線運航を海外キャリアに認めるためのオプションとして国内キャリアの座席買い取りなども示されているが、これは買い取りの有無に関わらず第8の自由を認めることになるので条約・協定違反の回避策にはならない。同様の考え方としてコードシェアの実施もあるだろうが、国内キャリアの便名を付与することでカボタージュを回避できるという話は聞いたことがない。加えて言えば、海外キャリアの便名を外してタグエンドまがいの運航を行えば、今度は国内法規で禁止されているウェットリースになってしまう。もとより成田乗り入れ待機組を受け入れてきた関空(の発着路線)に限って優先的にカボタージュを認めるとすれば、成田乗り入れの海外キャリアに対して同様の措置を取らないことは"排他的な特権の付与"になりうる。結局、カボタージュは開放的に、かつ完全に認めるほかないのだ。 

 日本が海外キャリアに対して第9の自由までを認めるためには、まずアメリカEUとの2国間協定で相互にカボタージュの付与を行うことが必要である。つまり、JALやANAがロサンゼルス=ニューヨーク間、あるいはロンドン=パリ間を運航できるようにしなければならない。しかし、アメリカはこれまで海外キャリアに対してカボタージュを一切付与していない。もともと不平等条約だった日米協定の修正を強く求めてきた日本に対して、アメリカが初めてカボタージュ付与を認めるとはとても考えられない。EUもカボタージュ拒否の姿勢は(アメリカ以外に対しては)同様であるため、結局彼らの言う「オープンスカイ政策」の本質は自国市場を守りつつ海外市場に対して開放を迫る"偽装自由化"であると言うべきだ。 

 関空発着路線に限らず国際航空を真に自由化するためには、まず米EU間の航空協定で相互にカボタージュを付与することをスタートとして、その後日米など世界の2国間協定で順次それを取り入れていくことが必要だ。これは、現に存続する「シカゴ=バミューダ体制」の根本的な見直しによって初めて実現する。国際金融ではブレトンウッズ体制の見直しが論じられているが、航空の世界ではシカゴ=バミューダ体制はブレトンウッズの比にならない強大なものだ。そう簡単には変えられない(航空自由化をリードしたわけでもない日本には尚更無理だ)。橋下知事はまずそのことを知った上で関空の振興策を考えるべきで、この手の実現性のない話に期待すべきではない。

カテゴリ: マネー・経済    フォルダ: 自由化/規制緩和

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